子供の頃からうどんが好きで、ソバなんて食べた気がしないうえにすぐ空腹になるという感覚でした。
世の中で一番嫌いな食べ物といってもいいぐらいでした。
それは単に美味しいソバを食べたことがなかったから、味覚が未熟で腹持ちのするものにしか反応しなかったからです。
グルテンフリーがどうこういわれはじめたタイミングで、小麦粉でできたものをできるだけ避ける生活をしてみました。
当然うどんやピザ、パスタの類は口にしません。
麺類はソバ一択です。
ある日、知る人ぞ知る隠れ家に迷いながらたどり着くと感動するおいしさに出会いました。
そこは脱サラしたご主人と奥さまで切り盛りする、普通の住宅街の一軒家です。
口コミとご近所の方しか来ないお店はまるで秘密基地のようです。
蕎麦猪口や徳利などの器からそばつゆや鰹節の調味料に至るまでこだわりぬいたもので揃え、常連客は皆満足そうに食べていました。
私も初めて食べたときは、具材と小鉢、ソバの絶妙な美味しさに驚き、中高年が突如そば打ちに没頭する気持ちが腑に落ちました。
どれもこれも厳選されている。
かといって高いわけでもなく、無理のない範囲での営業だから週5日の昼間しか開いていない、それも事前に予約しておかないと売り切れている場合もある。
そんな大好きなお店に遠距離介護のあいまに立ち寄るのがささやかな楽しみでした。
しかし昨日久しぶりに出掛けてみてご主人が亡くなったことを知りました。
やっぱりお別れは突然なんだな。
隠れ家のような空間で相席した人々との会話が楽しく、孤独な介護生活に潤いをもらっていたのに。
がっかりしながらの帰り道、また新たな出会いと発見がありこうやって生きていくよりないのだなと改めて思いました。